第22回 栄光祭 ㊦ 2020年10月17日

生物の進化と歴史の逆転劇に学ぶ

●東京・創価学園 1989年7月 栄光祭㊦
〈先生は、生物の進化の過程に焦点を当て、“生命の「変革」「進歩」も、「圧迫」の壁に対し懸命に「抵抗」する中で生まれてきた”と考察する。
そこでアメリカの著名な科学者ロバート・ジャストロウ博士の著作『太陽が死ぬ日まで』(小尾信彌監訳、集英社文庫)から、いくつかの例を示した。①長期の干ばつの中、空気中の酸素を吸収できる「肺」をもった生物が誕生し、陸上で活動しはじめた②恐竜の脅威から逃れて夜間にエサを探すため、小さな爬虫類の中から、体温を一定に保つ機能を獲得するもの(恒温動物)が出てきた③大氷河時代、寒さから身を守るため、人類は動物の毛皮を身にまとうなど、道具を駆使するようになった――〉

長い生命の“逆境と苦闘”の歩みが意味するものは何か。ジャストロウ博士は語る。「逆境と苦闘が、生物進化の根底にある。逆境がなければ、生物に加わる“圧力”はなく、この“圧力”がないと、変化は起こらない」(前掲書)と。

人類初の月面着陸を成功させたアポロ計画の理論的中心者であるロバート・ジャストロウ博士と出会いを結ぶ池田先生(93年9月、アメリカ・ロサンゼルスで)

圧迫や障壁のないところに進歩はない。生きぬこう、戦いぬこうと知恵を発揮し、環境を克服して進んでいくのが、生きとし生けるものの鉄則である。人間も、その他の生物も、また集団も、進歩し発展しゆく方程式は同じである。
諸君の勉強や試験も、ある意味では自分への「圧迫」かもしれない。しかし、それをやりきっていくところに、知性と人格を深め、人生を勝ちゆくための「進歩」がある。その意味で、今、勉強しておかなければ、あとで後悔をする。どうか将来のために、自分自身のために、しっかりと勉強をしていただきたい――これが創立者としての心からの期待であり、願いである。

〈会場となった講堂の舞台には、「民衆を導く自由の女神」(ドラクロワ作)を模した巨大な貼り絵が掲げられていた。先生は学園生の力作を称賛。話題を「フランス革命」に移し、危機を克服する中で、時代を転じゆく「精神の遺産」が築かれていくと語る〉

会場に入って、私は驚いた。舞台のすばらしい絵が、大きく目に飛びこんできたからである。ドラクロワ作の「民衆を導く自由の女神」。聞けば、この堂々たる模写絵(縦6・3メートル、横10・8メートル)は諸君全員の手によるものという。私は感動した。若人の発想、才能、情熱、そして団結の力は偉大である。大人の想像以上である。

舞台上にドラクロワの作品の巨大な模写絵が設置された創価学園の第22回栄光祭。池田先生はそこに書かれた「友よ 正義の旗を振れ」とのテーマについて、「私も、心から賛同するし、この言葉を諸君に呼びかけたい気持ちでいっぱいである」と(1989年7月、東京・創価学園の講堂で)

ところで背景の絵は、19世紀の市民革命を描いたものである。18世紀末のフランス革命で掲げられた「自由」「平等」「友愛」の理想。その実現のため、時代を超えて戦い続けるフランス市民に対して、ドラクロワがささげた感動の賛歌といってもよいであろう。
精神にも「遺産」がある。ひとたび築かれ、打ちかためられた魂の「遺産」は、長く、たしかに、一つの民族、一つの国家を養っていく。とりわけ、危機の時に、その“宝”は発揮されるものである。
フランス革命が国民に残した「精神の遺産」は、少なくない。
その一つが、いかなる圧力や弾圧にも屈しない「抵抗(レジスタンス)」の精神ではあるまいか。第二次世界大戦でフランスは、ナチス・ドイツに占領された。この時、燃えあがったのが、この「レジスタンスの炎」である。
彼らは、いかなる苦境にも、“しかたがない”“あきらめよう”などとは決して思わなかった。――最後の最後まで抵抗し、戦おう。そして、ついには勝利を勝ち取るのだ――と、確信してやまなかった。
これこそ、フランス革命から生まれた“フランス魂”である。その意味で、フランス革命は過去のものではない。脈々と国民の心に受け継がれているといえよう。
確たる「伝統」が築かれ、脈動しているところは強い。ここ創価学園にも「栄光祭」というすばらしき「伝統」が構築された。しかもそれは、一人一人の心に強く生きている。私にとって、これ以上の喜びはない。

「親孝行」の意味
〈最後に先生は、親や友人を大切にできる立派な人間に成長してほしいと呼び掛けた〉

ここで、何点か諸君にお願いしておきたい。
その一つは、どうか、お父さん、お母さんを大切にしていただきたいということである。
それは両親のためであることはもちろんであるが、しかし、親の心というものはもっと深い。
親が子どもの「親孝行」を喜ぶのは、決して自分のためではない。親は、子どもが孝行してくれようとも、またそうでなくとも、子どもを思う心には変わりはないものである。
ただ、わが子が「親孝行」のできる子どもであれば、将来も心配はない。そういう温かい心根があれば、いつになっても、何をやっても、どこへ行っても、立派な人間性をもって進んでいけるであろう。また、どんな苦難があろうとも、その強く優しい心が、一生の幸せを築きゆく原動力となっていくだろう、と親は考えて喜ぶのである。
どうか、そうした“親の心”のわかる諸君であっていただきたい。親に心配をかけないこと自体が、立派な親孝行である。その人はすでに立派な「大人」、立派な「人間」であるといえる。
そして、これが創価学園の人間教育の精神であることを申し上げておきたい。

もう一点は、現在、多くの学校が不登校(登校拒否)や校内暴力の問題に悩んでいる。教育の最大の課題ともなっている。

諸君の周囲にはあまりそのような例はないかもしれないが、友人が何らかの理由で学校を休み、ふたたび登校してきた時には、どうか心温かく迎えてあげていただきたい。人は言葉ひとつで勇気づけられもし、また心を傷つけられることもある。どうかそうした“思いやり”の心を忘れない諸君であっていただきたい。

〈第22回栄光祭から30年余り。当時の学園生は現在、40代。各地域・各分野の最前線で奮闘している。社会が大きな危機に直面する今、創立者が語った指針は、多くの友の「勇気の源泉」として、いや増して光を放ち続けるに違いない〉