コスタリカ
23年10月02日

中米のコスタリカ共和国は、1949年に公布された憲法で軍隊の不保持を定め、国家予算の約3割を占めていた軍事費を教育費に充てるよう転換し、83年には非武装中立を宣言するなど、“平和の先進国”として知られている。きょうは池田先生が平和旅の第一歩をしるした10・2「世界平和の日」。同国の人々に息づく「豊かな心の励まし」の文化を学び、一人一人が平和を築く対話に励んでいきたい。

建物が青空と白雲に溶け込むように。コスタリカの首都サンホセは高原にあり、街も人も爽やかな空と共に生きる(1996年6月、池田先生撮影)

優美なる
蘭の香りの
コスタリカ
平和の花は
豊かな心に

心の豊かさには、不思議な力があります。
お金やモノの豊かさには限りがありますが、心はどこまでも豊かになります。また、心の豊かさは、無限の価値を創造し、いくらでも人々と分かち合うことができます。いな、分かち合うことで、ますます心は豊かになっていきます。そして、心と心の絆も、さらに豊かに広がっていくのではないでしょうか。
こうした心の豊かさに満ちた平和の国が、中米のコスタリカ共和国です。コスタリカとはスペイン語で、「豊かな海岸」という意味です。

念願かなって、私がコスタリカを訪れることができたのは、一九九六年の六月です。
首都サンホセは、山並みの緑がみずみずしい高原都市です。
コスタリカの友人たちが、民謡「美しきコスタリカ」を歌って歓迎してくれました。
“コスタリカはあまりにも美しい。アメリカの地で宝石のように光を放つ。そしてコスタリカの誇りは、この国の女性たちである”という歌です。
生きとし生けるものを魅了してやまない天地の美しさは、心豊かな女性たちの生命の光彩でもあるのでしょう。

〈池田先生はコスタリカの歴史に触れながら、武力から教育へと方向転換を成し遂げた同国をたたえる〉

コスタリカは、教育の先進国です。十九世紀前半に独立し、一八六九年には、すでに憲法で初等教育を義務化し無償にしました。
コスタリカは、民主主義と人権の先進国です。一八八九年、九〇年の選挙と民衆運動は、ラテンアメリカで名高いコスタリカの民主主義の伝統の起点となりました。お招きいただいた大統領府の入口には、「ここはコスタリカ国民の家」と記されていました。
コスタリカは、平和主義の先進国です。一九四九年には、“平和憲法”で軍隊を廃止して、その分、多くの費用を教育に注いでいったのです。まさしく、人類史に輝く大転換です。
それまで陸軍の要塞だったところは博物館となり、学びの平和の城に生まれ変わりました。
「現代化学の父」で、エバ・ヘレン夫人と平和に尽力したアメリカのポーリング博士も、私との語らいで“世界の国々はコスタリカに学べ”と強調されていました。

穏やかな陽光が降り注ぐサンホセの庭。輝く緑の草木がにぎやかに語り合っているよう(1996年6月、池田先生撮影)

励ましの光を
〈池田先生は、同国で行われたSGIの「核兵器――人類への脅威」展のオープニングに出席した折、式典会場そばの「子ども博物館」から響く子どもたちの声に触れ、こうスピーチした。「にぎやかな、活気に満ちた、この声こそ、姿こそ、『平和』そのものです。ここにこそ原爆を抑える力があります。希望があります。子どもたちは、伸びゆく『生命』の象徴です。核は『死』と『破壊』の象徴です」。母と子の笑い声が響く平和な世界を願って、先生はペンを走らせる〉

母と子の
悲惨の涙を
拭わむと
慈愛の炎は
闇夜を照らして

コスタリカで歌われてきた、母を讃える詩歌があります。
「どの女性より最も美しい人は母。幼子の時、その愛の腕はゆりかごとなり、毎晩一緒に祈ってくれた母。母よ、貴女にこの命を捧げよう。そして私の愛情を」と。
一番身近で生命を支え、育んでくれている母への感謝を忘れないこと。母の祈りを翼として社会へ羽ばたき、母の励ましを光として生命を輝かせていくこと――。
ここに、正しい人生を歩み、平和な社会を創りゆく永遠の原点があると言えましょうか。

私の妻の友人は、母として、大学の教授として、社会の宝である若い世代を育ててきました。彼女は、法華経に登場する「不軽菩薩」の精神――すなわち生命を絶対に軽んじない、どんな人も尊重していくという信条を大切にしています。
幾つもの重要な責任を担う時には、さすがに不安に襲われましたが、「ゆっくりでもいい。常に前進を」をモットーに挑戦を重ね、乗り越えてきたのです。仲間にも、「一生涯、挑戦し続ける人生の素晴らしさ」を語っています。
また、ある女性は、夫の就職が進まないなど困難に直面し、夫婦の仲もうまくいかなくなった時期がありました。そのなかで、「家族の幸福のために自分ができることから始めてみようよ」と自らに言い聞かせて努力し、思いやり深い家族の団らんを取り戻していきました。そして、「まず自分が変わろう! その決意に立てば、すべては開ける」と友を励ましながら、「豊かな海岸(コスタリカ)」を「豊かな人材の天地」にしようと、夫妻共に奮闘を続けています。
家庭でも地域でも、豊かな心の励ましのあるところ、どんな苦難にも負けない強さが生まれます。豊かな心には、自分と仲良く、人と仲良く、自然とも環境とも仲良くする賢さが光ります。その心を持つ女性こそ、自分のいる場所から平和を築く主役でしょう。

一期一会の出会い
〈池田先生はコスタリカ訪問を振り返り、一人一人と、心と心の交流を重ねていく重要性を強調する〉

私のコスタリカ訪問は、四日間の慌しい滞在でしたが、一人でも多くの方々と友情を結んでおきたいと思いました。
お世話になっているホテルの方々にも、お会いした際には、妻と共々、せめてものお礼の声をかけました。素晴らしい笑顔で応えてくださる方に、手持ちのカメラで写真を撮って、あとでお届けしたこともあります。
折々に顔を合わせる受付やドアマン、また、陰で支えてくださっているシェフや清掃員などのスタッフとも、心を通わせていきました。
最終日、その方々が、わざわざ忙しい仕事の合間を縫って、ロビーに勢揃いして見送ってくださったのです。一人一人と握手をし、直接、感謝をお伝えすることができました。
一期一会の出会いであっても、心と心の深き交流は、色あせることのない信頼の絵巻を織り成していくものでありましょう。

真心に
真心重ねて
築きゆく
人間家族を
地域へ 世界へ

(『忘れ得ぬ旅 太陽の心で』第6巻所収)

池田先生がコスタリカを出発する日、滞在したホテルのスタッフがそろってロビーまで見送りに。先生は一人一人に心からの感謝を伝えた(1996年6月)