ボストン 2020年08月21日


ハーバード大学周辺の街並み(1991年9月、池田先生撮影)

月刊誌「パンプキン」誌上の池田先生の連載エッセー「忘れ得ぬ旅 太陽の心で」を紹介する本企画。今回は「ボストン――未来を開く“学の都”」〈2012年10月号〉を掲載する(潮出版社刊の同名のエッセー集から抜粋)。アメリカ独立運動の起点ともなったボストンは、多くの名門学府が並び立ち、人類の未来を創り開く俊英を陸続と生み出してきた。そこに脈打つ朗らかな楽観主義の精神に学び、「今から」「今いる場所から」「自分から」新たな社会を創造しゆく挑戦を開始していきたい。

おお!
なんという爽やかな青空
なんという眩き太陽の光
なんという鮮やかな緑の森

生きとし生けるすべてが
生まれ変わったような
新鮮な朝――

初めてアメリカ東海岸のボストンを訪れた一九九一年の秋。私は、朝の喜びから始まる詩を詠み、友に贈りました。
朝の光には、万物を蘇らせる奇跡の力が秘められています。人間にとって、学ぶことは、朝の光のように、魂に夜明けをもたらす蘇生の力を持っています。
まさしく「学は光」「学は太陽」なのです。
この清新なる知性の光彩に満ちた“学の都”こそ、ボストンと言ってよいでしょう。

市内にはボストン大学、マサチューセッツ大学、近郊にはハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、タフツ大学など、名門学府が並び立っています。ここから、何人もの大統領が躍り出て、ノーベル賞受賞の大学者も陸続と誕生してきました。
世界より英才が集い来たり、学び鍛えて、再び世界へと舞い飛ぶ。ボストンは、ダイナミックに躍動する人材の城として、人類の未来を創り開く俊英を生み出し続けています。
ボストン生まれのケネディ大統領は、折々に語っていました。
「真に幸福な人々とは平和をつくる人である」「いくら歳をとっていても、逆にどんなに若くても、私たちはみな、世の中の役に立てるはずだ」と。
ボストンには、賢明に、はつらつと、幸福と平和の連帯を広げゆく友がたくさんいます。

力を合わせて
〈池田先生はここで、2度目のハーバード大学講演にまつわる思い出を述懐。また、アメリカの知性のリーダーたちとの交友を通し、調和を生み出す「開かれた対話」で、今いる場所から「平和の文化」の創造へ出発しようと呼び掛ける〉

一九九三年の九月、ハーバード大学での二度目の講演に臨む前日、私は、ケネディ大統領の生家を訪問して在りし日を偲びました。
さらに、その近隣で、地域のリーダーとして活躍されている方のご自宅におじゃまして、友人やお子さんと楽しく談笑し、“自らの地域を、世界一、幸福な地域に!”と念願しました。
尊き友らは「積極的な挑戦」を合言葉に、生命尊厳の哲学を学び合いながら、仲良き社会貢献のスクラムで前進されています。
自分の生きる地域の共同体を、皆で対話し、力を合わせて、より善くする。ここに、アメリカに脈打ってきた民主主義の息吹があります。

目と耳と口の三重苦の障がいに屈せず、ハーバード大学ラドクリフ・カレッジで学び、福祉事業家として活躍したヘレン・ケラーは、「失敗は一生の充実を勝ち誇る勝利の証拠である」との信念を大事にしました。
何ごとにも断じて絶望することなく、たくましく道を切り開く、アメリカ精神の朗らかな楽観主義を、私は深く愛する一人です。

マサチューセッツ大学ボストン校のモトリー学長㊧と、教育を巡って語り合う(2010年11月21日、新宿区の創価学会恩師記念会館で)。この日、世界平和と全民衆の幸福への比類なき貢献を讃え、“学の都”ボストンに立つ名門学府から池田先生に「名誉人文学博士号」が授与された

私は、ハーバード大学の隣接地に、平和研究機関の「ボストン二十一世紀センター」(現・池田国際対話センター)を創立しました。モットーとして「世界市民のネットワークの要たれ」「『文明の対話』の懸け橋たれ」「『生命の世紀』を照らす灯台たれ」と掲げました。
異なるものを結び、虹のような調和を生み出す原動力は、「開かれた対話」でありましょう。
その初代のリーダーの女性は、カーター政権時代、ホワイトハウスで公共政策を担当した知性です。「差異を認めるだけでなく、差異を讃え合う」という心で、世界一級の知性のネットワークを築き、今も颯爽と、平和のための英知の声を結集してくれています。
結局、人間を結ぶものは、人間です。ゆえに誠実な人格こそ、平和の柱なのです。
この女性が深い友好を培った一人が、ボストン郊外に在住の「平和研究の母」エリース・ボールディング博士でした。博士が亡くなる前、彼女に託すように語られた言葉があります。
「平和の文化は、放っておいては実現しません。自分がつくらなければ。一緒にやるのです」
「私たちが今いる場所からスタートするのです」
「私たちは“今”から逃げることはできません」
「あなた自身が、あなたが学んだことの実現でなければいけません。歩みを止めないで! 自身がやっていることに喜びを持って!」
「今から」「今いる場所から」「自分から」、喜び勇んで行動を起こしていく。ここに「平和の文化」を創造していく出発があると言えましょう。

自分を信じる
〈結びに池田先生は、新しい一日を、あせらず、また怠らず、自分自身の偉大な力を引き出す、挑戦と開拓の日々にと念願。日常の生活という最高の“学びのキャンパス”で、社会のために行動する人生の尊さを述べた〉

ボストン市庁舎を訪れ、首脳や市民の代表にご挨拶した時、私は、ボストンを故郷とする思想家エマソンへの敬愛の心を申し上げました。
エマソンは「自分自身を信ずることだ」と呼びかけています。また、「私たちの内部には、みずからそれと知らない、いいものが沢山ひそんでいる」というのです。
人間生命に秘められた、偉大な力を引き出す。
私たちの一日一日は、この勇敢な挑戦であり、冒険であり、開拓であると言えるかもしれません。その翼こそ、他者との交流のなかで学ぶことであり、社会のために行動することではないでしょうか。
現実の世界、日常の生活が、“学びのキャンパス”であり、“行動の広場”であることを、ボストンは今朝も清々しい光とともに、私たちに語りかけてくれています。
なごりの尽きないアメリカ訪問を終えるに当たり、私は感謝を込めて友に贈りました。

皆さまの
真心嬉しく
帰国せむ
昇れ人生!
昇れアメリカ!

(『忘れ得ぬ旅 太陽の心で』第1巻所収)