第44回「SGIの日」記念提言 下?(2)?
非人道的で深刻な 事態を招く
AI兵器を条約で禁止
国連の特別代表を任命し水資源を守る体制を強化
統一ドイツのヴァイツゼッカー初代大統領との語らいでは、冷戦後の世界の課題などが焦点に。ヴァイツゼッカー大統領は、「安全」にとって「武力」は第一義的要素ではないことを強調した(1991年6月、ボン市内で)
私も以前、平和学者のケビン・クレメンツ博士との対談で、LAWSの規制を巡る非公式の専門家会合が2014年に国連で初開催されたことを受け、LAWSの 危険性について語り合ったことがあります(『平和の世紀へ 民衆の挑戦』潮出版社)。
その際、私は、良心の呵責も逡巡も生じることなく自動的に攻撃を続けるロボット兵器には、人道的観点からも極めて重大な問題があることを訴えました。
その上で、惨事が引き起こされる前に、あらかじめ全面規制を図ることが急務であり、開発と配備を禁止する枠組みづくりを早急に進めるべきであると呼び掛けたのです。
クレメンツ博士も、NGOが進める「ストップ・キラーロボット」=注4=のキャンペーンに触れて、こう述べていました。
「こうした市民社会による運動や国連事務局、そして各国の外交関係者などの広範なアクター(行動主体)が積極的に連携を強めていくことが、この問題解決の大きなカギとなります」と。
国連に提出したSGIの声明
昨年4月に行われた政府専門家会合では、「兵器の使用に人間の判断が介在すること」の必要性を大多数の国が認めたほか、26国がLAWSの全面禁止を求めました。
私は、国連の「軍縮アジェンダ」における警告と、政府専門家会合で示された各国の懸念を基盤に、「LAWS禁止条約」の交渉会議を早期に立ち上げることを強く求めたい。
日本も昨年2月に、人間が関与しない完全自律型の兵器の開発を行う意思はないとの方針を示しています。また欧州議会が、国際規制の枠組みづくりの交渉を早急に開始することを呼び掛ける決議を9月に採択しました。
市民社会の間でも、「ストップ・キラーロボット」の活動に参加するNGOが、51カ国の89団体にまで広がっています。
SGIも昨年10月、国連総会第1委員会に代表が出席した際、二つの声明を同委員会に提出しました。
一つは、キリスト教、イスラム教、ヒンズー教、仏教などの信仰を基盤にした14の団体と個人の連名で出した「宗教コミュニティーによる共同声明」で、核兵器禁止条約の重要性とともに、LAWSを禁止するための多国間の議論を呼び掛けたものです。?
そしてもう一つがSGIとしての独自の声明で、LAWSが深刻な軍事的脅威をもたらすだけでなく、「生命の権利」と「人間の自律と責任と尊厳に関する原則」 を著しく脅かす存在に他ならないことを警告したものです。
もし、LAWSが規制されないまま、実際に使用される事態が起きた時、紛争の性格は根源から変わってしまうに違いありません。
そこでは、すでにドローン兵器の場合にみられるような、攻撃をする側と攻撃される側の人間が同じ空間にいないという“物理的な断絶性”に加えて、実際の戦闘行為が攻撃を意図した人間と完全に切り離されるという“倫理的な断絶性”が生じるからです。
ヴァイツゼッカー大統領の戦争体験
軍事的脅威の深刻さもさることながら、この“倫理的な断絶性”が何を意味するのかを考える時、私の胸に浮かんでくるのは、統一ドイツのリヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー初代大統領が自身の体験として紹介していた話です。
物理学者のヴァイツゼッカー博士の弟君でもある大統領とお会いしたのは、ドイツの統一から8カ月後(1091年6月)のことでした。
その際、戦時中に日本とドイツが経験した「閉じた社会」の危険性について語り合いましたが、大統領は回想録で次のような体験を紹介していました(『ヴァイツゼッカー回想録』永井清彦訳、岩波書店を引用・参照)。
──大統領は、西ドイツの議員を務めていた時期(73年)にソ連を初訪問し、レニングラード(現サンクトペテルブルク)にある墓地に足を運んだ。
そこは、第2次世界大戦中にドイツ軍による包囲戦で亡くなった大勢の人々が眠る場所だった。
その夜、会食会に出席した大統領は、あいさつに立った時、ソ連の人々の前で告白を始めた。
実は自分も、あの時の包囲戦に参加していたドイツ兵の一人であった、と。
思いもよらない言葉に、場内が沈黙に包まれる中、大統領は言葉を続けた。
「われわれはすべての前線、とりわけレニングラード市内における苦しみを充分承知していました。われわれ自身が体験したことを、子孫が決して繰り返してはなりません。われわれはそのために応分の責任を果たすべく、今ここにいるのです」
その率直な言葉に触れ、最初は沈黙していたソ連の人々も次第に心を開き、温かささえ感じる雰囲気に変わっていった──と。 翻って今後、紛争地域でLAWSが実際に使用された場合に、かつての敵同士のこうした対面は果たして成立するでしょうか。
自身が関わった行為に対する“深い悔恨”と、戦争に対する“やりきれない思い”、そして、次の世代のために平和な関係を築き直したいと切実に願う“一人の人間としての決意”が入る余地は、そこにあるでしょうか。
私も、大統領がソ連を初訪問した翌年(74年9月)に、そのレニングラードの墓地を訪れて献花し、平和の誓いを込めた祈りを捧げたことがあります。
ソ連滞在の最終日にコスイギン首相とお会いし、墓地に献花したことを伝えた時、首相は当時の包囲戦の苦しみを思い返すかのように、「あの時、私もレニングラードにいました」との言葉を発したきり、しばし沈黙されました。
しかしその瞬間から、コスイギン首相との胸襟を開いた対話が大きく進んだのです。世界が直面する課題に取り組むには、戦争という考えをまず捨てる必要がある ──その思いを率直に語られた時のコスイギン首相の真摯な表情は、今も忘れることができません。
それだけに、ヴァイツゼッカー大統領とソ連の人々との心の交流が、どれほど得がたいものだったかを強く感じます。
ヴァイツゼッカー大統領はまた、戦時中の鮮烈な思い出をこう記していました(前掲『ヴァイツゼッカー回想録』)。
「戦線の両側では、自分の命を気遣い、したがって互いにとてもよく似た心配をしている人間同士が対峙していた」
「ある夜、長い列を組んで音もなく行進していた時のことだが、突然もう一つのきわめて静かな隊列が向こうからやってきた。互いの姿は見えなかったが、それでもこれがロシア人だということはすぐに分かった。双方の側とも冷静さを失わないことがなにより必要だった。われわれは沈黙のまま、互いに無傷でやり過ごした。 殺し合うべきだったのだろうが、むしろ抱き合いたいくらいだった」
AIが制御する兵器において、敵味方に分かれた相手に対する複雑な思いや、「冷静さ」という言葉に込められた人間性の重みを感じて、一時的であれ、戦闘行為を踏みとどまることはあり得るのでしょうか。
もちろん、LAWSの規制においては、国際人道法の法的な観点──すなわち、「文民保護の原則」をはじめ、戦闘員であっても不必要な苦痛を与えることを禁じた「不必要な苦痛禁止の原則」、人道法の適用上の問題がないかを確認する「新しい兵器の検証義務」など──に照らした論議も重要でありましょう。
しかしその上で、ヴァイツゼッカー大統領の述懐が浮かび上がらせていたような、LAWSに潜む“倫理的な断絶性”に目を向けることを忘れてはならないと訴えたいのです。
このように核兵器とは別の意味で、攻撃される側の国にとっても、攻撃する側の国にとっても取り返しのつかない結果を招くのが、LAWSに他なりません。
LAWSの禁止を求める国々と、日本のように開発をしない意思表明をする国々が、「ストップ・キラーロボット」の活動に参加するNGOと協力して、LAWSの開発と使用を含めて全面禁止する条約の制定を、早急に目指すべきではないでしょうか。 世界人口の4割が水の不足に直面 続いて第四の提案として述べたいのは、国連のSDGsに関するもので、水資源の保護について具体的な提案を行いたい。
国連のSDGsでは目標の一つとして、すべての人々が安全で安価な水を飲むことができることを掲げています。しかし現在、21億人が安全な水を得ることができずにいるほか、世界の4割の人々が水不足の影響を受けています。
人口増加や経済成長、人々の消費行動の変化により、水の需要は全体的に増える一方で、アジア、アフリカ、中南米の河川では排水による水質の悪化がみられます。 また、気候変動によって水循環に影響が生じ、雨が多い地域でさらに雨量が増え、乾燥地はますます乾燥するという現象も起きています。
こうしたグローバルな水危機を乗り越えるために、国連では昨年3月、国際行動の10年「持続可能な開発のための水」(通称「水の国際行動の10年」=注5=)を開始しました。
ニューヨークの国連本部での開幕式で、国連総会のマフムード・サイカル副議長が述べた言葉は、世界的な水不足の影響が不平等なものになっている状況を浮き彫りにしていました。
「この建物の中では、喉が渇いたままでいたり、口にする水で自分が病気になるかどうかを心配する人は誰もいないでしょう。そんな基本的なニーズを満たすために、誰も自分の尊厳や安全を危険にさらすことはない。これが私たちの現実です。 しかし、世界中の多くの人々にとっては話が別なのです」と。
実際、身近な場所に安全な水を得る環境がないために、6億人以上の人々が整備されていない井戸をはじめ、池や川、湖などから水を汲んで利用する生活を送っています。
そのため、多くの女性や子どもたちが、長時間、重さに耐えながら水を運ぶことを強いられています。
また、不衛生な水のために病気になることも少なくなく、毎年、大勢の子どもたちが命を落としているのです。
その意味で、安全な水の確保は貧困や格差の問題にとどまるものではない。健康上の不安や水運びの負担を日々感じることなく、尊厳をもって生きるという「基本的な人権」に深く関わる問題に他なりません。
生活用水の不足に悩むことなく、安全な水を飲むことのできるありがたさは、突然の災害に見舞われた時に、先進国の人々の間でも強く実感されてきたことではないでしょうか。
水に関する権利は、女子差別撤廃条約や子どもの権利条約などで明記されたほか、2010年の国連総会決議で「生命及びすべての人権の完全な享受のために不可欠な人権」と位置付けられ、国連人権理事会の決議でも重要性が確認されてきたものです。
そこで私は、SDGsの主要な目標であり、人間の生命と生活と尊厳を守る基盤となる安全な水の確保をグローバルな規模で図るために、国連に「水資源担当の特 別代表」のポストを設けることを提案したい。
日本が豊かな経験 と技術を生かし
水問題を抱える国々を支援
SDGsの達成を目指し世界の大学が協力を促進
「リベラルアーツ教育の国際化」を巡って、アメリカ創価大学が主催した学術会議。コロンビア大学やナイロビ大学をはじめ、各国の大学と教育機関から学長や教職員が出席した(昨年6月、カリフォルニア州オレンジ郡のアメリカ創価大学で)
国連には現在、水問題に特化した専門機関はありませんが、UNウオーターという、水問題に関連する30以上の国際機関から構成されるグループがあります。
私は、国連事務総長によって新たに任命された水資源担当の特別代表が、UNウオーターに属する諸機関と力を合わせながら、成功事例の共有をはじめ、技術移転に関するパートナーシップの構築を各国に働きかけていってはどうかと考えるのです。
その具体策の一つとして、水資源担当の特別代表を中心に、「水の国際行動の10年に関する国連会合」を定期的に開催することを、併せて呼び掛けたい。
国連と世界銀行が招集した11カ国の首脳らによる「水に関するハイレベル・パネル」の報告書でも、こうした会議を毎年もしくは隔年で行うことを提唱していました。国連会合の定期開催を通じて、私が前半で論じたような「人間中心の多国間主義」のアプローチを、水資源の分野において定着させることが強く望まれると思うのです。
国連のグテーレス事務総長も、自らがポルトガルの首相を務めた時期に成立したスペインとの水管理の条約をはじめ、インドとパキスタン、ボリビアとペルーの事例を挙げながら、水が「紛争ではなく、協力を促す存在」となってきたことを強調していました。?
世界には、286にのぼる国境を接する河川と湖沼流域があるほか、国境をまたぐ帯水層も592を数えます。こうした中、3割近くの越境河川で、流域に面する国々が共同で水資源を管理する枠組みがつくられてきました。
残りの越境河川でも、特別代表とUNウオーターの諸機関が支援する形で同様の枠組みづくりを進め、水の安定的な供給と水質の保護を図るべきではないでしょうか。 中東やアフリカで水の再利用を図る 水問題に関してもう一つ提案したいのは、淡水資源が将来的に不足する懸念を踏まえ、「水の再利用」や「海水の淡水化」などの分野で、水問題に関する豊かな経 験と技術を持つ日本などの国々が積極的に貢献を果たしていくことです。
日本はこれまで水分野での国際協力として、インフラの整備や人材育成など、多くの国にハードとソフトの両面から包括的な支援を行い、近年は、水と衛生の分野 での世界トップの援助国となってきました。
また日本には、水資源の分野における技術交流を、韓国や中国との間で長年にわたって続けてきた実績があります。韓国とは1978年から協力会議を開催し、中国とも85年から交流会議を重ねてきました。
昨年には、日中韓水担当大臣会合も行われ、3カ国が経験の共有などを図り、水問題に関するSDGsの目標の達成に向けて協力することを約し合いました。
私は、日本がこうした実績を基盤に、北東アジアにおける水問題の改善と地域の信頼醸成に努めるとともに、韓国や中国とも連携する形で、「水の再利用」や「海水の淡水化」のニーズが高い中東諸国やアフリカ諸国への支援を進めることを提案したいのです。
今年の8月には、第7回アフリカ開発会議=注6=が横浜で開催されます。
6年前に行われた第5回会議では、アフリカの約1000万人が安全な水を飲むことができるようにするための支援の継続や、1750人の水道技術者の人材育成を支援することなどが打ち出されました。
今回の会議で、日本がその取り組みの強化と併せて、「水の再利用」や「海水の淡水化」をアフリカ諸国で推進するための基本計画をまとめることを、私は呼び掛けたい。
日本は安全な水に恵まれた国である一方、昨年の世界リスク報告書によると、災害へのさらされやすさが世界で5番目に高いと指摘されています。
災害時に切実に必要とされるのが安全な水であり、日本はそうした面からも、安全な水の確保に苦しんでいる世界の人々を救うために、「人間中心の多国間主義」のリーダーシップを発揮できることがあるのではないでしょうか。
女性の笑顔広げるエンパワーメント
SGIとしても、市民社会の側から「水の国際行動の10年」を支援する一環として、水問題の影響を日常的に強く受けている女性に焦点を当てた、「命を守る水 と女性」展(仮称)を、今後開催していきたい。
水道設備が身近にないために、低所得国の女性や少女が1年間に水汲みの作業に費やす時間の合計は約400億時間にも及ぶといわれ、その負担は非常に大きなも のになっています。
水汲みのために歩く道には危険な場所も多く、また重い水を毎日運ぶために、体を痛めてしまう女性も少なくありません。安全な水を確保する環境が整えば、そうした問題が改善されるだけでなく、女性が他の仕事に就くことができたり、多くの少女が学校に通えるようになり、女性のエンパワーメント(内発的な力の開花)につながる道が開けてくるのです。
展示では、こうした女性を取り巻く状況とともに、水問題の解決のために行動する女性たちの姿も取り上げていきたいと思います。
国連でジェンダー平等と女性のエンパワーメントに取り組むUNウィメンは、その一つの事例として、タジキスタンのある女性の行動を紹介しています。
彼女は夫を亡くし、5人の子どもを育てながら、川から水を汲むために何時間も歩かねばならない生活を送っていました。
水の問題で悩む村人の多くが“状況は変わらない”と絶望する中、彼女は友人とグループを結成して行動を開始しました。複数のNGOからの支援を受け、村人も総動員して14キロに及ぶ水道管を引いた結果、3000人以上の村人たちが安全な水を飲むことができるようになったのです。
彼女は語っています。
「これは私たちの小さな勝利です。自分たちの生活をさらに向上したいと思っています。小規模な農園や温室を作る計画もあります。成功する自信があります」(UN Women日本事務所のウェブサイト)
こうした女性たちの笑顔の広がりこそが、SDGsの前進を何よりも物語るものになると、私は考えるのです。
国連本部で行われた「水の国際行動の10年」の開幕式で、市民社会の代表として発言したのも13歳の少女でした。
カナダに住む先住民で、水と環境を保護する活動をしてきたオータム・ペルティエさんは、「私たちは、必要な時に水を飲む権利があります。それは、豊かな人だ けでなく、すべての人々の権利です」と訴えました。
その上で彼女は、「子どもたちが誰一人として、きれいな水とは何か、水道から流れる水がどんなものかを知らないまま、育つようなことがあってはなりません」と強調し、「今こそ勇気を奮い起こし、地球を守るために、お互いをエンパワーする時です」と呼び掛けました。
SGIとしても、水資源の保護を通じて人間と地球を守る行動の輪を市民社会で広げるために、「命を守る水と女性」をテーマにした展示を行い、水問題の解決を後押ししていきたいと決意するものです。
17の目標を担う中心拠点を発表
最後に第5の提案として述べたいのは、世界の大学をSDGsの推進拠点にする流れを強めることです。
国連と世界の大学を結ぶ「国連アカデミック・インパクト」が2010年に発足してから、加盟大学は約140カ国、1300校以上に広がっています。
このアカデミック・インパクトが昨年10月、注目すべき発表を行いました。
国連のSDGsの17の目標について、各分野で模範となる活動をしている世界の17大学を選び、ハブ(中心拠点)の役割を担う大学として任命したのです。
例えば、目標2の「飢餓をゼロに」では、南アフリカのプレトリア大学が選ばれました。
プレトリア大学は、食糧問題や栄養に関する研究所を擁し、アフリカ諸国や国際機関と協力して研究を進めてきたほか、食糧安全保障をテーマにした国際会議を数年にわたって共同開催してきました。授業でも、SDGsのさまざまな指標に沿う形で、全学部のカリキュラムを考慮することが優先されています。
目標5の「ジェンダー平等」では、スーダンのアッファード女子大学が任命されました。女性が地域や国で活躍することを目指す教育が進められ、「ジェンダーと開発」「ジェンダーと平和研究」など、ジェンダーを専門とする4つの修士課程が開設されています。
目標16の「平和と公正」では、イギリスのデ・モントフォート大学が選ばれました。難民や移民との共生を目指す国連のキャンペーンで主導的な役割を担う大学として、難民の若者たちに教育の機会を提供するとともに、難民と移民の尊厳を守る重要性を訴え、難民の人たちの体験を記録し、共有するプロジェクトを推進しています。
日本の大学では、目標9の「産業と技術革新」の分野で、長岡技術科学大学が任命されました。
これらの17大学が3年間の任期を通し、SDGsのそれぞれの目標の取り組みを牽引していくことが期待されているのです。 国連広報局でアカデミック・インパクトの責任者を務めるラム・ダモダラン氏は、「学問は他者を利
し、学生は何かを生み出す。SDGsに取り組んでいる大学ほど、この組み合わせが効果的で劇的に作用している場所はない」と強調していますが、私もまた、大学が持つ限りない可能性を強く感じてなりません。
大学には社会の“希望と安心の港”としての力が宿っており、その力を人類益のために発揮する意義は、極めて大きいのです。
そこで私が呼び掛けたいのは、この17大学を中心に“SDGs支援の旗”を力強く掲げる大学の輪をさらに広げることです。
アカデミック・インパクトの加盟大学をはじめ、多くの大学が、力点を置くSDGsの目標を表明して、意欲的な挑戦を行うキャンペーンを進めていってはどうでしょうか。
また、同じ分野に取り組む大学間の協力を推進し、学生のグローバルな連帯を広げる意義を込めて、国連創設75周年を迎える来年に「SDGsのための世界大学会議」を開催することを提案したい。
青年の役割を重視する国連の「ユース2030」の戦略では、創設75周年などで国連のサミットが行われる際に青年の声を強めることや、国連事務総長と青年との定期的な対話の場を設けることを促しています。
その一環として、各国の教育者と学生の代表が参加する世界大学会議を開催し、SDGs推進の機運を高めるとともに、「国連事務総長と学生との対話フォーラム」を実現してはどうかと思うのです。
創価大学とSUAの意欲的な活動
これまで私は、創価大学の創立者として「大学交流の推進」に力を入れるとともに、世界の諸大学の総長や学長と「大学の社会的使命」を巡る対話を重ねてきました。
17大学の一つに選ばれたアルゼンチンのブエノスアイレス大学とも交流があり、長年にわたり総長を務めたオスカル・シュベロフ氏とお会いした時には、積年の思いを次のように述べたことがあります。
「私は『大学間の交流』によって、世界のよりよき将来のために『新しい知恵』と『新しい価値』が生まれてくると期待しています。対話と相互理解のなかからこそ、何らかの『新しい力』と『新しい理想の方向性』が創造されると信ずるからです」
その際、シュベロフ氏が「世界の大学は共通の課題をかかえています。その解決のために、各大学は力を合わすべきです」と共感を寄せてくださり、「教育者は、 一番困っている人に手を差し伸べるべきだ」との信念を語っておられたことが深く胸に残っています。
創価大学はアカデミック・インパクトの一員として、活動の柱となる10原則のうち、「人々の国際市民としての意識を高める」「平和、紛争解決を促す」「貧困問題に取り組む」「持続可能性を推進する」「異文化間の対話や相互理解を促進し、不寛容を取り除く」の五つの原則を中心に取り組んできました。
その上で、SDGsがスタートした16年以降は、国連難民高等弁務官事務所と「難民高等教育プログラム」の協定を結び、難民の学生を受け入れてきたほか、国連開発計画や国連食糧農業機関との協定に調印し、交流を進めています。
授業の面では、SDGsとつながりの深い平和・環境・開発・人権の分野からなる「世界市民教育科目群」を昨年設置しました。
このほか、持続可能な循環型社会の構築をはじめ、SDGsに関連するさまざまな研究に積極的に取り組んでいます。
アメリカ創価大学(SUA)でも、地球的な課題に関する教育に力を入れてきました。
学生が主体となって探究したいテーマを決めてクラスごとに共同研究や実地調査を行う、「ラーニング・クラスター」という伝統の教育プログラムがあるほか、ニューヨークの国連本部などで実施する研修の機会が設けられています。
また、国連の「国際非暴力デー」にあわせる形で、14年から毎年、「平和の文化と非暴力」会議を開催してきました。
私は2006年に発表した国連提言で、世界の大学が社会的使命の一つとして「国連支援の拠点」の機能を担うことを呼び掛けながら、国連の未来図を次のように提起したことがあります。学生や大学が「点」となり、それをつなぐネットワークが「線」となって、やがては国連支援の輪という「面」が地球全体に広がっていく──と。
その大学の輪は、アカデミック・インパクトの枠組みを通じて、世界1300以上の大学にまで広がりをみせています。
今回の拠点大学の発表を新たな契機として、世界のより多くの大学がSDGsの推進のためにさらに力を注ぎ、それぞれが積み上げてきた経験を共有しながら、誰も置き去りにしない地球社会を築くための行動の連帯を強めていくべきではないでしょうか。
三つの柱を軸に世界市民教育を
SGIでも、国連支援の活動の柱としてきた「世界市民教育」を通して、SDGsの推進のために積極的な役割を果たしていきたいと考えています。
これまでSGIが地球的な課題に関する展示を行ってきた会場の多くは、世界各地の大学であり、その中には、拠点大学に選ばれたノルウェーのベルゲン大学も含まれています。
大学こそ問題解決のための英知を結集し、新しいアプローチを育む揺籃であり、時代変革への力強いエネルギーは青年、なかんずく学生たちから生まれると確信するからです。
昨年6月、人権活動家のエスキベル博士との共同声明の発表が行われた場で、その共同声明を壇上で受け取ったのは二人の学生であり、その翌日に共同声明を巡る「青年の集い」を開催した場所も、ローマの学生街にある会場でした。
共同声明で私と博士は、「世界市民教育を通じた青年のエンパワーメント」の推進を提唱し、その柱として次の3点を挙げました。
1.悲惨な出来事を繰り返さないため、「歴史の記憶」を胸に共通の意識を養う。
2.地球は本来、人間が「共に暮らす家」であり、差異による排除を許してはならないことを学ぶ。
3.政治や経済を“人道的な方向”へと向け、持続可能な未来を切り開くための英知を磨く。
今後も世界の大学との連携を深めながら、SDGsに関する意識啓発の展示などを行い、この3点に基づいた「世界市民教育」の裾野を着実に広げていきたいと思います。
ローマの学生街で「青年の集い」が開催された日(6月6日)は、くしくも創価学会の牧口初代会長の誕生日でありました。
創価学会とSGIの源流には牧口会長の教育思想がありますが、その要諦をなすメッセージは次のように綴られています。
「目的観の明確なる理解の上に築かれる教育こそ、やがては全人類がもつ矛盾と懐疑を克服するものであり、人類の永遠の勝利を意味するものである」(『牧口常三郎全集』第8巻、第三文明社。現代表記に改めた)
SGIは、この教育が持つ限りない可能性をどこまでも信じ、青年のエンパワーメントを通して、すべての人々が尊厳を輝かせて生きられる「持続可能で平和な地球社会」の建設に邁進していく決意です。
語句の解説
注4 ストップ・キラーロボット
キラーロボット(殺傷ロボット)などの「自律型致死兵器システム(LAWS)」の開発と使用の禁止を求め、2013年4月に発足した市民社会の国際的なネット ワーク。人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチが調整役を務め、アムネスティ・インターナショナルやパグウォッシュ会議などの多くのNGOが活動に参加。 SGIもメンバーとして名を連ねている。
注5 水の国際行動の10年
水資源の持続可能な開発と統合的な管理をはじめ、国際2018年から28年まで進められる取り組み。1981年から90年までの「国際飲料水の10年」と、2005年から15年までの「『命のための水』国際の10年」に続く、水に関する第3次の国際10年となっている。
注6 第7回アフリカ開発会議
日本が主導する形で1993年から継続的に行われてきた国際会議で、今年8月の横浜での開催で第7回となる。前回の会議は2016年にケニアのナイロビで行われ、アフリカ諸国の「オーナーシップ」と国際社会による「パートナーシップ」の重要性が提唱された。アフリカの国々だけでなく、国連や世界銀行などの国際機関や、アジア諸国、民間企業、市民社会なども議論に参加する枠組みとなっている。
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