日本と中国が行動の連帯を広げ
気候危機を打開する牽引力に
続いて、現在の世代だけでなく、これから生まれる世代のために、何としても早期に解決を図らねばならない三つの課題について、具体的な提案を行いたい。
第一の課題は、気候変動問題の解決です。
長年にわたって警鐘が鳴らされてきたにもかかわらず、地球温暖化の勢いに歯止めがかからない状況が続いています。
異常気象の被害も拡大の一途をたどっており、そうした中で、干ばつや森林火災が各地で頻発するとともに、海洋でも水温上昇や酸性化が進み、陸地と海洋の双方で温室効果ガスの吸収能力の低下が懸念されるという、悪循環も生じているのです。
こうした一刻の猶予もない状況下で、昨年10月から11月にかけてイギリスのグラスゴーで行われたのが、国連気候変動枠組条約の第26回締約国会議(COP26)でした。
各国の意見の違いで協議は難航し、会期が1日延長される中で、「世界の平均気温の上昇を1・5度に抑える努力を追求することを決意する」と明記した成果文書が合意されました。

昨年10月から11月にかけてイギリスのグラスゴーで開催された、国連気候変動枠組条約の第26回締約国会議。会期中には、世界の青年たちの声を届けるためのパネルディスカッションも行われた(AFP=時事)
2015年に採択されたパリ協定では、「2度未満」に抑えることが主力の目標だっただけに、今回、「1・5度」が新たな共通目標となった点は、大きな前進と言えます。
しかし、各国が表明した温室効果ガスの削減目標のみでは達成は困難とみられており、さらなる対策の強化が欠かせません。
この点に関し、COP26のアロック・シャルマ議長は、閉幕にあたっての声明で次のような注意喚起をしていました。
「1・5度という目標は堅持できました」
「しかしその鼓動は、依然として弱いと言わざるを得ません。だからこそ、歴史的な合意に達したとはいえ、その評価は各国が署名を行った事実だけではなく、署名国が約束を順守して実行できるかどうかにかかっているのです」と。
その意味で、予断を許さない状況は今後も続きますが、局面の打開につながるシナリオがまったく存在しないわけではない。
世界資源研究所などがまとめた報告書によると、温室効果ガスの排出量の75%を占めるG20諸国が、「1・5度」の目標に沿って削減を加速させ、2050年までに“排出量の実質ゼロ”を達成すれば、平均気温の上昇幅を目標の一歩手前である、1・7度以内にまで近づけることは可能だというのです。
国交正常化50周年を機に協力を深化
そこで私は、COP26でアメリカと中国が気候変動問題での協力を約束したのに続く形で、日本と中国が同様の合意を図り、問題解決に向けた希望のシナリオを共に生み出していくよう、強く呼びかけたい。
アメリカと中国の共同宣言では、温室効果が高いメタンの削減をはじめ、再生可能エネルギーの分野や、違法な森林破壊の阻止などの面で、2030年に向けた協力を進めることが盛り込まれています。
近年、米中両国の間で緊張が高まっていますが、世界の温室効果ガスの4割以上を排出する両国が、人類共通の課題のために歩み寄った意義は誠に大きいと言えましょう。
日本と中国の間でも、気候変動問題での協力を強化する合意を、早期にとりまとめるべきではないでしょうか。
本年は、日中国交正常化から50周年にあたります。
次なる50年の出発を期す意義を込めて、「気候危機の打開に向けた日中共同誓約」を策定し、持続可能な地球社会のための行動の連帯を広げていくことを提唱したいのです。
日本と中国には、環境問題で長年にわたり協力を重ねてきた実績があります。
出発点となったのは、両国を行き来する渡り鳥とその生息環境を守る協定(1981年)で、1994年には日中環境保護協力協定が結ばれ、1996年に日中友好環境保全センターが北京に設立されました。
その後も、さまざまな分野で協力が進み、大気汚染の防止をはじめ、植林や森林保全、エネルギーや廃棄物対策など、数多くの成果が積み上げられてきたのです。

北京師範大学からの名誉教授称号の授与式。世界の大学・学術機関から200番目となった名誉学術称号に対する謝辞で、池田SGI会長は、日本と中国にとっての未来の最重要課題として環境問題を取り上げ、さらなる協力の拡大を呼びかけた(2006年10月、東京・八王子市の創価大学で)
思い返せば、日中友好環境保全センターの設立10年を迎えた年に、私は北京師範大学からの名誉教授称号の授与式(2006年10月)で、両国の環境協力の歴史に触れながら、こう呼びかけたことがありました。
「この流れを、さらに加速させていかねばならない。そのために、100年先の長期展望に立った、包括的かつ実効的な『日中環境パートナーシップ(協力関係)』の構築を、私は、ここに強く提言しておきたいのであります」
「そして日中両国が、大切な隣国である韓国とも力を合わせて、『環境調査』や『技術協力』、『人的交流』や『人材育成』等を、より強固に推進していくならば、その波動はアジア全体はもとより、全地球的なスケールで広がっていくことは絶対に間違いないと、私は確信するものであります」と。
これまでも日中友好環境保全センターを拠点に、アメリカ、ロシア、EU(欧州連合)諸国とのプロジェクトを進めてきたほか、100カ国以上の途上国を対象に環境行政を担う人々の研修を実施するなど、日中の環境協力は大きな相乗効果を生んできました。
気候危機の打開に向けて、日本と中国がこれまでの実績を基盤に、韓国をはじめアジア諸国との協力をさらに深めながら、世界に“希望と変革の波動”を広げる挑戦を力強く進めることを願ってやみません。
国連と市民社会の連携で
地球環境と生態系を保全
プラスの連鎖を力強く生み出す
この「国家間の協力」に関する提案と併せて呼びかけたいのは、「国連と市民社会との連携」を強化するための制度づくりです。
具体的には、気候や生態系をはじめとする「グローバル・コモンズ(世界規模で人類が共有するもの)」を総合的に守るための討議の場を国連に設けて、青年たちを中心に市民社会が運営に関わる体制を整えることを呼びかけたい。
気候変動枠組条約と生物多様性条約への署名を開始した場となり、砂漠化対処条約を生み出す契機となった国連環境開発会議(地球サミット)が、ブラジルのリオデジャネイロで開催されてから本年で30年を迎えます。
三つの条約については2001年に共同連絡グループが設けられ、情報の共有や活動の調整がされてきましたが、市民社会による支援を得ながら、対策の連動をさらに力強く進めるべきではないでしょうか。
私は、そこに気候変動問題を解決するための活路があると考えます。いずれの問題も深く結びついているからこそ、解決策も相互に連動させることで、困難の壁を打ち破る新しい力が生まれていくからです。
「グローバル・コモンズ」には、各国の主権が及ばない公海をはじめ、北極や南極とともに、地球を覆う大気や生態系のような、人類の生存と繁栄に不可欠なものが含まれており、最大の焦点は、現在から将来の世代にわたっての保全を図ることにあります。
昨年から、生態系の回復に関する国連の10年〈注4〉がスタートしましたが、三つの条約以外の分野も含めて対策を連動させながら、問題解決の前進を相互に後押しする“プラスの連鎖”を起こすべきだと訴えたいのです。
3月には、国連環境計画(UNEP)の創設50周年を記念した、国連環境総会の特別会合がケニアのナイロビで行われます。
この特別会合で、「グローバル・コモンズ」の観点に基づいて環境問題への総合的な取り組みを強化する方針を盛り込んだ宣言を、採択することを呼びかけたい。その上で、「グローバル・コモンズ」に関する問題を集中的に討議するための場を国連に設けるべきだと考えるのです。

昨年9月、イタリアのミラノで行われた「ユース・フォー・クライメート」の会議。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんらが登壇した初日の全体会合では、国連気候変動枠組条約の第26回締約国会議のアロック・シャルマ議長が、ビデオ映像を通して演説を行った(AFP=時事)
世界の青年が問題解決に取り組む
国連ユース理事会を創設
私は昨年の提言で、青年の視点による提案を国連の首脳に届ける「国連ユース理事会」を創設する重要性を訴えました。例えば、こうした青年主体の組織に、その討議を担う役割を託してはどうでしょうか。
2019年に国連で行われたユース気候サミットに続いて、昨年9月、国連ユース理事会のイメージを彷彿とさせるような、若者たちによる国際会議「ユース・フォー・クライメート」が、イタリアのミラノで開催されました。COP26に先立つ形で行われたもので、若い世代の声とアイデアを政府間交渉につなげる場となったのです。
パリ協定のほぼすべての署名国を含めた186カ国から、約400人の若者が集った国際会議には、創価学会青年部の代表も参加しました。その会議の宣言で打ち出されたのが、次の要望事項だったのです。
「気候変動枠組条約において、若者の参加を促進する機関を設置し、若者が締約国の代表たちと、また若者たち同士で、公式かつ定期的に対話ができる常設的な場を提供すること」
「若者の発言に関して、全体会合における最後というよりも、最初や途中でも発言できるようにすることをはじめ、会期中で若者の発言の機会を増やすこと」
このように、自分たちの生活や将来に深刻な影響をもたらす気候変動問題に対し、協議や意思決定のプロセスに一貫して関わることができる制度づくりを、世界の青年たちは切実に求めているのです。
危機の現場に集い 共に解決策を探る
その意味で、国連ユース理事会の構成にあたって何よりも大切なのは、ミラノで行われた国際会議と同様に、世界のすべての国に参加の道を開くことだと思います。
国連ユース理事会の運営においては、通常の討議はオンラインで実施し、重要な決定を行う全体会合は半年に一度、会場をさまざまな場所に移しながら、対面で行う形態も考えられましょう。
その上で、毎回の全体会合における成果を、国連での意思決定につなげるべきだと考えるのです。
国連の歴史をひもとけば、当初、複数の都市から誘致の声が上がり、国連本部の設置場所が決まらない中で、「航海を行う船の上に国連を設置し、恒久的な世界周航状態に置く」という案が出されたこともあったといいます。
実際、ニューヨークの国連本部が完成するまで、最初の国連総会はロンドンで行われ、第3回の総会はパリで行われるなど、他の都市で国連総会が開催された経緯があったのです。
国連の議場を船舶に設けて世界の海を航行する案は、当時でも奇抜だったでしょうが、どの国の主権も及ばない公海は「グローバル・コモンズ」の象徴でもあり、そのアイデアには“人類の議会”としての国連に込められた思いを偲ばせるものがあります。
こうした国連の創設前後の歴史を踏まえて、ユース理事会の全体会合もニューヨークの国連本部に限定せず、さまざまな国で行うことも一案ではないでしょうか。

2018年9月、ニュージーランドのオークランドで開催された戸田記念国際平和研究所の研究会議。「太平洋地域における気候変動と紛争」をテーマに、オーストラリアやニュージーランドのほか、ヨーロッパ、北米などから参加した研究者が討議を行った
開催地の選定にあたっては、各国の青年たちに加えて、気候変動の影響に伴う損失と損害や、生態系の悪化が深刻な地域から、多くの市民社会の代表が参加しやすい場所を、優先的に選ぶ方法もありましょう。
この点、私が創立した戸田記念国際平和研究所では、さまざまな会議を行うにあたり、その会場として、テーマとなる課題が深刻な地域を選んできたことが多くありました。
「現実に苦しんでいる民衆の声を聞き、民衆の側に立つ」との理念に基づくもので、現在も、海面上昇の影響が深刻である、太平洋の島嶼地域に焦点を当てた気候変動問題の研究プログラムを進めています。
国連ユース理事会の全体会合を行う際にも、危機の現場に近い場所から打開策を探ることが大切になると思えてなりません。
そうした国連への青年参画の制度づくりを、「国連と市民社会との連携」を強化するための突破口にすべきだと考えるのです。
この提案に関連し、国連子どもの権利委員会が先月から開始した取り組みについても言及しておきたい。
同委員会では、子どもの権利と環境、特に子どもと気候変動を巡る課題に焦点を当てた重要文書となる「一般的意見26号」を起草するにあたって、NGOやすべての世代からの意見の募集を開始したのに続き、来月からは特に世界の子どもたちを対象に意見を募集することになりました。
今後は、この「一般的意見26号」の起草に子どもたちが参加する諮問チームの発足も予定されており、子どもたちの声が世界の取り組みに反映されることを期待するものです。

気候変動問題への対応における青年の役割をテーマに、昨年11月、イギリスSGIと青年団体が共催した討論会。国連気候変動枠組条約の第26回締約国会議の開催に合わせて、グラスゴー市内で行われた
私どもSGIも、青年たちを中心に環境問題に関する活動を続けてきました。
昨年、COP26がグラスゴーで行われた際には、地球憲章インタナショナルと新たに共同制作した「希望と行動の種子」展を開催したほか、COP26に設けられた参加団体による意見表明の場で、次のような声明を発表しました。
「青年たちの声に耳を傾けることは、オプションではない。世界の未来を心から憂慮するのであれば、必然的に進むべき唯一の道である」と。
人間には、いかなる試練も乗り越える力が具わっています。なかんずく、“未来は自分たちの手で切り開く”との信念で立ち上がった青年たちの連帯こそ、その何よりの原動力となるものではないでしょうか。
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注4 生態系の回復に関する国連の10年
2021年から2030年の10年間を通し、気候危機との戦い、食料安全保障と水供給、生物多様性の保全強化に関し、効果ある対策として、生態系の回復を促進することを目指す。2019年3月に採択された国連総会の決議では、若者をはじめ、女性や高齢者、障がいのある人々、先住民など、すべての関係者が、その取り組みに関与する重要性が強調されている。
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