第4回「トインビー博士との語らい」
2020年05月12日


トインビー博士と池田先生が語り合う。その様子を、ベロニカ夫人(右端)と香峯子夫人が見守る(1972年5月、イギリス・ロンドンで)。対談集『21世紀への対話』は、多くの識者・指導者が座右の書として愛読する

「長い間、この機会を待っていました。やりましょう! 21世紀のために語り継ぎましょう!」

83歳のトインビー博士が、44歳の池田大作先生に呼び掛ける。1972年(昭和47年)5月5日、両者の対談は、イギリス・ロンドンにある博士の自宅で始まった。

“20世紀最大の歴史家”と称される博士から、先生に手紙が届けられたのは、その3年前の69年(同44年)秋。「貴殿を英国にご招待し、現在、人類の直面している諸問題に関して、二人で有意義な意見交換ができれば幸いです」

現代文明の危機を乗り越える高等宗教としての可能性を、大乗仏教に見いだしていた博士は、急速に発展する学会に“生きた仏教”として大きな関心を抱いていたのである。

語らいは、初日から8時間にも及んだ。

「私は新しい種類の宗教が必要だと感ずるのです」「新しい文明を生み出し、それを支えていくべき未来の宗教というものは、人類の生存をいま深刻に脅かしている諸悪と対決し、これらを克服する力を、人類に与えるものでなければならないでしょう」とトインビー博士が鋭く語れば、池田先生は、「現在から未来にかけての一切の問題に、人類が一体となって取り組むのに役立つ宗教でなければならない」「このような普遍的な宗教を見いだすことこそ、現代に生きるわれわれの、最大の課題であると考えるのです」と応じる。

宗教とは、人間とは、世界平和を実現する方途とは――対談は翌年5月にも行われ、計40時間にわたった。


トインビー博士と池田先生の対談の収録に使用されたマイク、テープレコーダーなどの機材

対談を終えて、博士は先生に語る。「人類の道を開くのは、対話しかありません。あなたはまだ若い。これからも、世界の知性との対話を続けてほしい」

そして同行者に、ローマクラブ創立者のペッチェイ博士ら、対話を進めてほしい識者の名を記したメモを託したのである。

「トインビー博士との語らいによって、私の世界の識者との対話は、本格的に幕を開けたといっていい」――先生が紡いできた各界の識者・知性との対話は1600回を超える。

博士逝いて45年。対談集『21世紀への対話』は、29言語に翻訳され、今もなお世界中で読み継がれている。